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大切な人にありがとう
シンジ君誕生日。





「誕生日おめでとう、シンジ君」

僕の部屋に遊びに来てくれた、正確に言えば僕の呼び出しに応じて来てくれたシンジ君にまず今日一番言いたかった言葉を贈る。
流石に玄関の前だったので、クラッカーは鳴らさなかったけれど、クラッカーの紙テープが飛び出すような勢いを感じさせるような元気さを込めて。
もうこの元気さがプレゼントみたいなものなんだけれど、シンジ君の反応は薄かった。

「あ、うん。ありがとう……」
「え、何その冷めたリアクション……せっかくサプライズでシンジ君の誕生日を祝おうとしたのに!」
「いや、サプライズも何も渚が僕の誕生日を祝おうとしてくれてたのは薄々わかってたし、それに僕誕生日祝われ慣れてないから……」

何ということでしょう。
こんなに可愛いシンジ君が今までロクに誕生日を祝われてこなかっただなんて!
これは僕が今までと今回合わせて十四年回分の誕生日を祝うくらいの気持ちで祝わなければ!

「大丈夫! 今日という日は最高の日にして見せるから! 一年三百六十五日あるけれど、こんな素晴らしい一日は他にないってくらいの最高にハッピーな日にしてみせるよ!」
「ど、どうも……」
「ささ、立ち話もなんだから入って入って」

このままだと気合が入りすぎて半日くらい玄関の前でシンジ君が生まれてきたという今日がいかに素晴らしいかを語りかねないので、自分で自分にブレーキをかける意味でもシンジ君を中に通す。

「すごいね……」

僕の部屋を見るなりシンジ君が呟く。
僕の部屋には昨日僕が頑張って飾り付けた輪っかが繋がったやつとかリボンとかが垂れ下がっていて、テーブルの上には軽い夕食やお菓子やジュースが所狭しと並んでいる。
シンジ君は知らないだろうが、実は冷蔵庫にもスタンバイしているケーキがある。

「っていうかこれ二人で食べる量じゃないよね」
「うん、気合入れて用意したよ!」

気合入れて作ったと言いたいところだけど、残念ながら全部市販のものだ。
僕はシンジ君みたいに料理がうまくない。
まぁ、手作りでないけれど、むしろこのマズいものをシンジ君に食べさせるわけにはいかないという判断力と思いやりがプレゼントのようなものだと思ってほしい。

「気合入りすぎでしょ……余ったら勿体ないからちゃんと食べきれる量にしなよ」
「大丈夫、余ったら僕が責任もって明日でも明後日でも一週間でもちゃんと食べるから! あ、何なら持って帰る?」
「じゃあ、持って帰れそうなものは持って帰るよ……」

僕は張り切りすぎだろうか。
この後、本当のプレゼントを渡すためにちょっと緊張してて、それを無理に振り払うために明るく振る舞っているだけなのかもしれない。
うまく渡せるだろうか?



僕とシンジ君は食事も終わって、ケーキも食べ終わって一服していた。
そろそろいい頃かもしれない。

「シンジ君、ちょっと外出ない?」
「外?」

シンジ君の手を引っ張って外に連れて行く。

「ちょっと……そんなに引っ張らなくてもちゃんと行くから」
「あはっ、つい心が弾んじゃってね」
「そんなに楽しいの?」
「うん、そりゃあね、シンジ君の誕生日を祝うためにシンジ君とずっと一緒にいられるし、誕生日当日に二人っきりだなんて僕ってシンジ君にとって特別なのかなって思っちゃうし、これもシンジ君が生まれてきてくれたおかげだよね」
「意味がわからないし……」
「え、僕そんな変なこと言った?」

シンジ君が俯いてしまったので少し不安になる。
でも……。
代わりに僕は顔を上げて空を見上げる。

「あ、ほら、シンジ君下向いてないで! 星、綺麗だよ!」
「いや、別に下向いてたわけじゃ……いや、向いてたけど、そんな落ち込んでるみたいな言い方……ってほんとだね」
「あ、あれとか綺麗だよね。密やかな、だけどしっかりとした輝きがシンジ君みたい」
「は? どれも一緒じゃない?」
「えー、違うよ。あれだよ、あれ」

一つの星を掴もうとするように目一杯腕を伸ばして指で指し示す。

「どれ?」
「だから……」

シンジ君の手を取ってその星の方向へと導く。

「え?」
「これだよ」

うまく渡せただろうか。
シンジ君の掌の中には指輪があった。

「あ……」

それに気付くと、一瞬驚いた後、シンジ君の顔がみるみる顔が赤くなっていった。

「シンジ君顔赤いよ?」
「うるさいな! 君、よくこんなベタベタなことできるね!?」
「あはっ、プロポーズみたいでしょ?」
「何で自慢げなの、褒めてないからね? 恥ずかしい……」

シンジ君はそのまま顔を背けると、黙り込んでしまった。

「もしかしていらなかった?」
「そ、そんなことない! ……いや、せっかく用意したプレゼントを受け取ってもらえないほど悲しいことはないと思うからね。渚の頑張りに免じて受け取っておくよ」
「わ、ありがとう!」
「って何で君がありがとうなのさ」
「おかしいかな?」
「おかしいよ。それは僕に言わせてよ」

シンジ君はちょっと一呼吸おいてはにかむと口を開いた。

「ありがとう、渚」
「うん、どういたしまして!」
「そうそう。っていうかちゃんと突っ込んでよね。何でそんなに偉そうなの、とかさ。そうじゃないと僕どんどん素直になれなくなって、自己嫌悪に陥りそうになる」
「そうかな? 僕が突っ込まなくてもシンジ君素直になれたじゃん」
「いつなったのさ?」
「ありがとうって言ってくれたじゃん」
「そんなの全然足りないよ。本当は渚が元気に笑ってくれることも、僕のために沢山飾りつけしてごちそう用意してくれたことも、僕のこと祝おうとしていっぱいいっぱい頑張ってくれたことも、全部ありがとうって言いたい」
「そんなの……シンジ君が喜んでくれるだけで僕は嬉しいからね」
「ありがとう」

また、ありがとう。

「さっきからシンジ君ありがとうばっかりだね」
「ん、ま、まぁ、それくらい感謝してるってことで……」

ちょっと恥ずかしくなったのか口ごもる。
改めて感謝の言葉を口に出すというのも恥ずかしいものなのかもしれないけど。
でも、せっかくなら他の言葉だって聞きたい。

「シンジ君、好きだよ」
「な、何急に?」
「急じゃないよ。さっきからシンジ君ありがとうとしか返してくれないからさ……シンジ君好きだよって言ってもありがとうとしか返してくれないのかなーって」
「はぁ、全く君は……」
「シンジ君、好きだよ!」

呆れられてもめげずに繰り返す。今度はさっきよりも元気に、もっと笑顔で。

「……僕も、好きだよ……」
「ああ、やっぱりシンジ君のこと大好きだ!」

期待に応えてくれたシンジ君をぎゅっと抱きしめる。
僕の大好きなシンジ君は今ここにいて、ちゃんと生まれてきたんだって全身で実感する。

「わ、もう……無理やり言わせて嬉しい?」
「嬉しいね! だって無理やりでも本心でそう思ってなきゃそんなこと言わないでしょ?」
「……」

シンジ君の手が背中に回る。
大好きなシンジ君をすっぽり覆っているとともに、僕もシンジ君に覆われている。

「えっ……?」
「……感謝してるから、頑張ってくれたご褒美」
「ありがとう!」
「いやだから、君がありがとうはおかしいんだって……」















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ツンデレ気味。

H24.11.7



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あきゅろす。
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